訪れたスポット
1.福生赤線
米軍基地のある街、東京都福生市に、地元住民から「赤線」と呼ばれる小さな歓楽街がある。
1946年、GHQによって公娼制度が廃止され、1958年に売春防止法が施行されるまで、全国の歓楽街に赤線と呼ばれる特殊な盛り場が形成された。

福生の歓楽街が、赤線だったのか、それとも青線だったのかはわからない。
赤線と青線が複雑に絡み合う地域だったのかもしれない。
いずれにせよ、地元住民は福生駅の東側に広がる小さな歓楽街を、今も赤線と呼ぶ。

福生の赤線は、村上龍や山田詠美といった文豪があまたの物語を紡いできた土地である。
一昔前なら、あの小説家のデビュー前は、あの音楽家のデビュー前は、あの芸術家のデビュー前は……なんて話がいくらでも聞けた。しかし当時を知る人たちのほとんどは、もう店を畳んでどこかに消えてしまった。基地の街という言葉は、すでに死語なのかもしれない。

赤線にひしめき合う飲食店は多彩だ。
中華料理、韓国料理、タイ料理、寿司屋、ラーメン屋、居酒屋、焼鳥屋、焼肉屋、スナック、キャバクラ、ガールズバー、ラウンジ、パブ、オカマバー、クラブ、バー、etc。
最近は人通りが少なくなったとはいえ、基地の街の歓楽街だけにおよそ何でもある。




赤線と呼ばれる歓楽街なので、当然そちら方面のサービスをウリにする店はたくさんある。
「この店がそうだろうか」「あの店はどうだろうか」と探す必要はない。
ほろ酔い気分で歩いていると、カフェー建築の成れの果てのような古い建物のドアが開き、店の奥の暗がりから、顔の見えない誰かが「お兄さん、こんばんわ」と声をかけてくる。

福生赤線は音楽文化の発信地でもある。
なかでも1974年創業の老舗ディスコクラブ・エディーズ(EDDIE’S)が有名だ。私は当時の赤線を知らないが、その昔はRED BIRD、49、クラブ順、BPといった伝説の店が通りのあちこちに並び、有名歌手やバンドの下積み時代を支えたと聞く。


赤線を歩くなら、昼間がいいかもしれない。
リリー・フランキーが描いた壁画、エディーズのヒップホップアート、スナックの壁に描かれたチマチョゴリの少女など、ストリートアートが楽しめる。





赤線の裏路地を歩いていると、木造アパートの階段から強面のおじさんがスマホに怒鳴りながら降りてきたり、コインパーキングの壁が一面落書きされていたり、廃業した飲食店から出た廃材がそのまま放置してあったりする。カオスといえばカオスだし、気取らない町といえば気取らない町である。




以前であれば、夜8時を過ぎた頃から米兵、酔客、夜回りのお兄さん、ヒップホッパー、地元のニイチャンたちが集まりはじめる。しかしコロナ禍以降は、人通りが減っているようだ。


近年は、地域経済の低迷が影響してか、建物の老朽化が著しい。2016年に、JR福生駅(青梅線)からJR東福生駅(八高線)をつなぐ富士見通りの拡張が告知され、赤線の一部は取り壊しが進んでいる。この昭和の残滓のような景色も、そのうちに消えていくのだろう。


交通アクセス
電車:JR福生駅(東京都福生市本町)
車:国道16号を福生(横田基地)方面へ。周辺の有料駐車場は1日500〜3000円


