【福生赤線】区画整理で消える米軍基地の歓楽街、“赤線”と呼ばれるストリートを歩く

東京都

訪れたスポット
1.福生赤線

米軍基地のある街、東京都福生市に、地元住民から「赤線」と呼ばれる小さな歓楽街がある。
1946年、GHQによって公娼制度が廃止され、1958年に売春防止法が施行されるまで、全国の歓楽街に赤線と呼ばれる特殊な盛り場が形成された。

JR福生駅(青梅線)東口。駅前にはスーパー西友、マクドナルド、KFC、CoCo壱番屋、ファミレス、居酒屋、etc。横田基地の最寄り駅で、休暇を楽しむ米兵とその家族の姿もよく見かける。

福生の歓楽街が、赤線だったのか、それとも青線だったのかはわからない。
赤線と青線が複雑に絡み合う地域だったのかもしれない。
いずれにせよ、地元住民は福生駅の東側に広がる小さな歓楽街を、今も赤線と呼ぶ。

駅前の商業ビル。青梅線沿線では、東京都で最も西寄りに位置する東横インがある。20年ほど前までは、西多摩随一の商業地区であったが、各地に大型ショッピングモールができたことで、現在は商業的にやや停滞気味な側面もある。

福生の赤線は、村上龍や山田詠美といった文豪があまたの物語を紡いできた土地である。
一昔前なら、あの小説家のデビュー前は、あの音楽家のデビュー前は、あの芸術家のデビュー前は……なんて話がいくらでも聞けた。しかし当時を知る人たちのほとんどは、もう店を畳んでどこかに消えてしまった。基地の街という言葉は、すでに死語なのかもしれない。

村上龍著『限りなく透明に近いブルー』(講談社文庫)、山田詠美著『ベッドタイムアイズ・指の戯れ・ジェシーの背骨』(新潮文庫)

赤線にひしめき合う飲食店は多彩だ。
中華料理、韓国料理、タイ料理、寿司屋、ラーメン屋、居酒屋、焼鳥屋、焼肉屋、スナック、キャバクラ、ガールズバー、ラウンジ、パブ、オカマバー、クラブ、バー、etc。
最近は人通りが少なくなったとはいえ、基地の街の歓楽街だけにおよそ何でもある。

スーパー西友の裏手から正面のラブホテルまでをつなぐ小さな裏通り。居酒屋、スナック、アジアンエステなどが軒を並べる。
赤線ではタイ料理屋をよく見かける。どの店で食べてもうまい。店員に「辛いの平気?」と聞かれたら、「普通で」と答えればなんとかなる。
不景気なのか、過疎化なのか。近年はいったん店がなくなるとずっと空き地のままだったりするが、ごくたまに新店が建つこともある。赤線を訪れたさいは、勇気を出してスナックのドアを開けてみてはいかがだろうか。
福生の有名ラーメン店「ポロ春」。ちなみに赤線にある店のいくつかは、円だけでなく、ドルで支払うことも可能だ。東京都福生市福生867、月定休。

赤線と呼ばれる歓楽街なので、当然そちら方面のサービスをウリにする店はたくさんある。
「この店がそうだろうか」「あの店はどうだろうか」と探す必要はない。
ほろ酔い気分で歩いていると、カフェー建築の成れの果てのような古い建物のドアが開き、店の奥の暗がりから、顔の見えない誰かが「お兄さん、こんばんわ」と声をかけてくる。

赤線のメインストリートともいえる区間。昭和の歓楽街感、基地の街感、場末感をこれでもかというくらい味わえる。

福生赤線は音楽文化の発信地でもある。
なかでも1974年創業の老舗ディスコクラブ・エディーズ(EDDIE’S)が有名だ。私は当時の赤線を知らないが、その昔はRED BIRD、49、クラブ順、BPといった伝説の店が通りのあちこちに並び、有名歌手やバンドの下積み時代を支えたと聞く。

創業50年弱の老舗ディスコクラブ・エディーズ。現在も週末になるとイベント、ライブなどが盛んに行われている。
90年代にあったRED BIRD(レッドバード)という有名クラブが閉店し、その後、00年代にできたRED CAVE(レッドケイブ)。

赤線を歩くなら、昼間がいいかもしれない。
リリー・フランキーが描いた壁画、エディーズのヒップホップアート、スナックの壁に描かれたチマチョゴリの少女など、ストリートアートが楽しめる。

リリー・フランキーが描いた裸婦、爆撃機、キリストの壁画。富士見通りの拡大工事のため、この建物は近い将来取り壊される運命にある。もし現物を見たいのであれば、早めに福生を訪れたほうがいい(2021年12月撮影)
(2023年8月撮影)手前にあったケバブ屋が解体され、10数年ぶり(?)に壁画の全体像が現れた。
エディーズのシャッターに描かれたフィンガーをくれているエイリアン。なかなか挑戦的である。
同じくエディーズのストリートアート。福生の街はこのような壁画があちこちにあったりする。
スナックの壁に描かれたチマチョゴリの少女。韓国朝鮮のママが店を切り盛りしているのだろうか。左側にアーティストのサインがあるが判読できない。かろうじてLee Won Sukと読める気がする。2010年の作品らしい。

赤線の裏路地を歩いていると、木造アパートの階段から強面のおじさんがスマホに怒鳴りながら降りてきたり、コインパーキングの壁が一面落書きされていたり、廃業した飲食店から出た廃材がそのまま放置してあったりする。カオスといえばカオスだし、気取らない町といえば気取らない町である。

「無断駐車したら罰金1万円を徴収する」との熱いメッセージが込められた手書き看板。字体から発せられる強い怒り、背後のトタン板に落書きされたグラフィティ。それらを総合的に勘案すると、治安がちょっと心配になるため、無断駐車する気は起きない。
福生市/福生警察署の「ゴミ捨て禁止」の警告も虚しい、ビルの隙間に放置されたゴミ……というか廃材。扇風機、スツール、椅子、掃除用具などが積まれている。どこかの店のオーナーが夜逃げするときに捨てたのだろうか。ドアにデザインされた鳥居はシャレなのかなんなのか。
木造2階建ての屋上に、トタン小屋を無理やり増築したように見える。2階部分には衛星放送のアンテナ3基が確認できる。この建物の正面ではパブ2軒、スナック1軒、バー1軒が営業しているが、そこの従業員が住んでいるのだろうか。
集合型の飲食店。昼間に薄暗い通路を覗き込むと、廃墟のごとくひっそりしている。しかし夜になると看板に明かりがともり、ドアの隙間から酔客の下手な歌声が聞こえてくる。

以前であれば、夜8時を過ぎた頃から米兵、酔客、夜回りのお兄さん、ヒップホッパー、地元のニイチャンたちが集まりはじめる。しかしコロナ禍以降は、人通りが減っているようだ。

コロナ禍以前の2019年に撮影した夜の写真。それからわずか3年が過ぎただけだが、すでに消えた店があったりと、店の入れ替わりはかなり激しい。
平日はひっそりとしているが、週末や休日はハメを外したお兄さんお姉さんが騒いでいる。繁華街の規模が小さいので、ボッタクリなどはまずないようだ。

近年は、地域経済の低迷が影響してか、建物の老朽化が著しい。2016年に、JR福生駅(青梅線)からJR東福生駅(八高線)をつなぐ富士見通りの拡張が告知され、赤線の一部は取り壊しが進んでいる。この昭和の残滓のような景色も、そのうちに消えていくのだろう。

手前は道端に放置された家具や電化製品。奥は増改築を重ねた昭和年間の建物。いろんな人種、商売の人が集まった福生の地。初めて訪れた人はカオスな印象を受ける……かもしれない。
富士見通りに面した建物はここ数年、取り壊しが進んでいる。4、5年前まではタイ料理屋、ピンクサロン、バーが並んでいた通りも、いまは空き地ばかりだ。

交通アクセス
電車:JR福生駅(東京都福生市本町)
車:国道16号を福生(横田基地)方面へ。周辺の有料駐車場は1日500〜3000円