小高い丘をてっぺんまで歩くと、住宅街を巻き込むような、大きなカーブに差しかかる。
左手に地元の名士らしい屋敷。右手に小さな公園がある。
木陰のベンチでは、散歩中の地元の老人が休んでいる。
公園の脇に伸びる急な石段を、息を切らせて上れば、住宅街に抜ける近道になる。

1970年代に、大手不動産屋が造成した宅地だ。
雑木林と畑ばかりだった土地が、たちまち1000世帯が住む閑静な住宅街に変貌した。
古い建物はいくつか残っているが、平成の間に建てられた新しい家屋が目立つ。
アウディだのフィアットだの小粋な欧州車も見かける。
70年代に分譲した住宅地にしては古さを感じない。

住宅街のなかに、ひときわ目立つ家がある。
二股道に挟まれた土地に建つ大きな家だ。庭の四方に常葉樹が植えられている。
11年前この家で、死体を水酸化ナトリウムで煮込み、遺棄損壊する事件が起きた。
西東京の顔役を自称する飲食店経営者Tが、市内の雑居ビルで射殺された。
Tを撃ったのは、従業員Aだった。

経営者Tは、凶暴な男だったといわれる。
雑居ビルの店に訪れては、売上の少ない従業員を捕まえ、殴る蹴るの暴行を加える。従業員の肛門に割り箸を突っ込む。全裸のまま接客させる。金銭絡みで追い込みをかけられた従業員は少なくないという。もちろん、そんな暴力絡みのうわさ話には、いつだって尾ひれが付くものだが。


ある日、客引き行為で従業員Aが警察に捕まり、店が1ヶ月の営業停止処分を受けた。
Tは激怒し「お前のせいだ。損害賠償を払え」とAに1000万円を要求した。「そんな大金は払えない」と拒否すると、Tは自宅まで押しかけてきて金を払うよう脅したという。

追い込まれたAは、店にTを誘い出し、拳銃で射殺した。心臓に1発。頭に1発。
そして実父が住む実家に死体を運び込み、四肢を切断。業務用のずんどう鍋に入れて薬品で煮込み、2日かけて肉を溶かした。肉を溶かした液体は、浴室の排水溝やトイレに流した。残った骨は砕き、北を流れる秋川の河川敷に捨てた。

数年後、Aら5人は死体損壊・遺棄罪容疑で逮捕された。
死体損壊現場であるAの実家の汚水槽から、Tのインプラントが発見されたのが決め手となった。




主を失った家は、時間が止まったままだ。
駐車場では2代目ホンダ・シティ、初代スズキ・ワゴンRが埃をかぶっている。
庭木は枝が伸び、雑草が生え、視界をさえぎる。窓のカーテンは閉められ、室内を覗き込むことはできない。裏手に回ると、白い外壁にツタが這っていた。


住宅街を抜け、公営団地群を歩く。
高速道路の高架下に広がる団地群だ。

小学校の前の小さな通りに出る。
食堂、理髪店、クリーニング屋、肉屋を過ぎて、川沿いの小道を歩く。
黒ずんだ長屋の玄関に、地元の暴走族の色あせたステッカーが貼ってあった。

「イヤなら仕事を辞めればよかった」
「こんなことになる前に逃げればよかった」
そんな言葉にどれだけの意味があるのか。自分の小さな地獄からは誰も逃れられない。
参考文献
J-CASTニュース


