【三島由紀夫の墓参り】あの世とこの世の淡い境目について考えながら夕方の多磨霊園を歩く

東京都

訪れたスポット
1.多磨霊園

霊園を散歩していいものか。正直ちょっと迷った。公益財団法人東京都公園協会「TOKYO霊園さんぽ」よれば、「著名人の墓所については、墓所の場所を示す案内図をご用意しております」とある。マナーを守れば、我々は故人を訪ねることができる。園内の赤い線は1周約3km、敷地の外の青線は1周約4.5km。

死んだ祖父は、若い頃に、麹町の東條會館で写真技師の修行をしたそうだ。
96歳まで生きた祖母に、そんな話を聞いた。
昭和の文豪、三島由紀夫は、東條會館でたびたび写真を撮った。
昭和45年10月、市ヶ谷駐屯地で自衛隊に決起を呼びかける1ヶ月前にも、楯の会のメンバーと記念写真を撮っている。

正門前の桜並木には喫茶店が数軒、花屋が1〜2軒、石材屋がいっぱい。西武線多磨駅からのアクセス至便だ。
正門の周辺には、トイレや休憩所が整備される。管理事務所では、多磨霊園の案内がもらえるようだ。パンフレットには多磨霊園に埋葬される著名人のお墓マップが記載される。HPでもダウンロード可(※注PDF

多磨霊園には、三島由紀夫の墓がある。本名は平岡公威。
楯の会学生長の森田必勝は、三島の介錯に3たび失敗している。
最後のひと太刀は、剣道の心得があった古賀浩靖が振るった。

『みたま堂』と呼ばれる遺骨の預かり施設。一時預かりから最長30年(更新可)まで対応するそうだ。
名誉霊域通りにある噴水塔。昭和5年に建設され、8本の柱が天井を支える。つまり八紘一宇をイメージして作られたそう。機銃による弾痕が残っているらしいが、今回は見逃してしまった。

写真週刊誌が乱立した昭和59年、『FRIDAY』の創刊号に三島の生首写真が掲載された。
後年、何かでそれを見て、口を半開きにした三島の最期の顔がまぶたに焼きついていた。
葬儀の前には、切断された首と胴体はしっかり縫合され、東條會館で撮影した記念写真と同じように楯の会の制服が着せられたそうだ。
その彼がここで眠っている。

園内にいくつかあるラウンドアバウト。公道では都内で最初に作られたものが多摩市、そして武蔵村山市にある。昭島市にも似たようなものあるが、こちらは円形交差点で、見た目はほぼ同じながら法的には明確な区別があるらしい。

多磨霊園は、大正12年、いまから100年ほど前に作られた。
当初は利用者が少なかったが、昭和9年に東郷平八郎が埋葬されたことで、たちまち人気が出たそうだ。墓地に人気不人気があるなんて知らなかった。

東郷平八郎元帥海軍大将の墓。こんなに立派なお墓を見たのは初めて(びっくり)。
山本五十六元帥海軍大将の墓。竿石の輝きと敷石にわずかな違いあるほか、左右にご家族の墓があるなしのみで、ほぼ同じ作り。

名誉霊域に埋葬された東郷平八郎、山本五十六、古賀峯一の連合艦隊司令長官トリオを筆頭に、阿南惟幾、井上成美、児玉源太郎、高橋是清、西園寺公望、平沼騏一郎、山下奉文など歴史の教科書でしか見たことがないビッグネームが眠っている。その名前の重さ、マジ半端ねえ。
私の足取りは軽い。

三島由紀夫が眠る平岡家の墓。睨まれて動けなくなったカエルになった気分だった

話を戻して三島由紀夫。
墓石は艶めかしい。その眼光の鋭さたるや、マジ半端ねえ。
正面からねめつけてくる。
三島は163cmの小柄な男だったそうだが、後楽園のボディビル・センターで鍛え上げられた肉体は強靭。まるで石のように硬い。
誰だお前は。何しに来やがった。そんな風にいわれた気分だ。

向田邦子の墓。墓誌に「花ひらき はな香る 花こぼれ なほ薫る」と森繁久彌の歌が刻まれる。
左は与謝野鉄幹、右は与謝野晶子の墓。墓の入口の句碑が立っていたが、私の学では恥ずかしながら読めなかった。刻まれた文字が薄くなっていたと言い訳しておきたい。
岡本太郎の墓。岡本かの子、岡本一平も近くに眠る。一輪のバラが供えてあった、と思ったらバラではなかった。赤い花的な何か。
吉川英治の墓。そういえば青梅市に吉川英治記念館があった。今度行ってみよう。
リヒャルト・ゾルゲの墓。花が絶えることがない。
江戸川乱歩が眠る平井家の墓。先にお参りした向田邦子つながりで、久世光彦が乱歩を描いた『一九三四年冬―乱歩』を思い出した。もうひとつついでに同じく久世光彦が三島を描いた『陛下』も思い出した。また読んでみよう。
多摩民におなじみの府中運転免許試験場。この対面に広がるのが多磨霊園だ。免許更新の待ち時間に散歩してみてはどうだろうか。

著名人の墓を訪ねるのはいい。
ただ、もうずっと前に死んだ写真屋の祖父。10年前に老衰死した祖母の墓参りはどうしたといわれれば、こちとら苦笑いするしかない。
次の週末にでも、久しぶりに墓掃除に行ってみようと思った。そこはいつかたぶん私が入る場所なのだ。

交通アクセス
電車:西武線多磨駅(東京都府中市紅葉丘)