訪れたスポット
1.小峰隧道(旧小峰トンネル/小峰峠)※TBSテレビ「口を揃えた怖い話」に画像提供しました。


人はいたるところで生まれ、いたるところで死ぬ。
だからというわけじゃないが、「幽霊が出る」と噂されるトンネルなんて別に珍しくもない。小峰峠は、東京都の西の果て、八王子市とあきる野市(旧五日市町)の境界にある。



大正時代に作られた全長約80mの小峰隧道(旧小峰トンネル)は、都道32号の旧道を登りきったところに横たわる。起点側(東京都八王子市上川町)の民家から、終点側(あきる野市小峰台)の小峰工業団地の入り口までは約1.6km。徒歩なら20分ほどかかる。常夜灯ひとつない暗い峠道だ。明るい日中ならまだしも、確かに、夕暮れどきや、ましてや夜中はちょっと歩きたくない……かもしれない。




昭和の終わり、この静かな町で、日本中を震撼させる大事件が発生した。東京・埼玉連続幼女誘拐事件だ。
犯人は宮崎勤。当時26歳のこの男は、幼女ばかりを狙い、わずか1年のうちに4人の命を奪った。
オタク、ロリコン。当時あまり聞き慣れない言葉がメディアに踊った。
各社の報道競争が沸点に達した平成元年8月、読売新聞が夕刊で「捜査本部が宮崎勤のアジトを発見した」と報じた。小峰峠にあるとされたアジトは、地元の名士であった宮崎家の使用人が使っていた山小屋の廃屋で、宮崎はそこに被害者の遺体を隠していたとされた。しかし、それは捏造記事だった。
小峰峠は、事件現場である宮崎の自宅から山2つ分くらい離れているし、ここに幼女の死体が遺棄された事実はない。もちろん犯人のアジトもなかった。ただ、トンネルに女の子の幽霊が出るという噂だけが残った。





都道32号は、思いのほか車通りが多い。ダンプやトラックが背中からバンバン追い抜いていく。新道から旧道に入ると、あとは峠のてっぺんまで細道が続くのみだ。こちらは人通りが一切ない。
アスファルトの道路は、あるところは苔むし、またあるところは足元が沈むほど落ち葉が積もっていた。夏になると、道端のツタや雑草が道路を覆ってしまうだろう。



大きな曲がり道の向こうに、小峰隧道がその口を開けていた。
大正5年の開通から、すでに100年以上が経過したレンガ造りのトンネル。トンネルのなかはかび臭い、じっとりした空気が漂っている。コンクリートの壁面には、地元の暴走族が書いたらしい落書きがあった。しかし、ひとの残り香のようなものは感じられなかった。



新小峰トンネルが開通した1999年以降、小峰隧道のある旧道は車止めが設置された。歩行者は依然通れるが、便利な新道があるのに、わざわざ薄暗い山道を歩くような物好きはいない。旧道で見かけるのは、犬を散歩する地元の人と、峠を攻める自転車乗りくらいのものだ。人通りが途切れてから早20年以上が過ぎた。噂の幽霊トンネルは、いまや緑に飲まれようとしている。ひとの気配すら薄れつつあるトンネルはもう怖くない。そもそもが、何もないただのトンネルなのだ。


