【旧小峰トンネル/小峰峠】手首のない少女の幽霊が出るとウワサのトンネルを歩く

八王子市

訪れたスポット
1.小峰隧道(旧小峰トンネル/小峰峠)
※TBSテレビ「口を揃えた怖い話」に画像提供しました。

都道32号八王子五日市線、通称秋川街道の旧道にある小峰峠。現在は歩行者のみ通行可。幽霊が出ると噂の旧小峰トンネルは、その峠のてっぺんにある。
小峰峠の旧道は、新道の東側にある。トンネルの起点は八王子側(地図の下側)だが、あきる野側(地図の上側)にいい感じの駐車スペースがあったため、今回はあきる野側から峠道を登った。赤線でなぞった旧道は約1.6kmの道程。

人はいたるところで生まれ、いたるところで死ぬ。
だからというわけじゃないが、「幽霊が出る」と噂されるトンネルなんて別に珍しくもない。小峰峠は、東京都の西の果て、八王子市とあきる野市(旧五日市町)の境界にある。

旧道の入り口には車止めが設置される。新小峰トンネルの脇にあるので見逃すことはない。車止めに「180m先 完全通行止め」とあるが、徒歩もしくは自転車なら通行できる。
坂道をヨチヨチ歩いていくと、東京都水道局が管理する小峰台配水所(応急給水拠点)の貯水槽が見える。大地震などの災害時は、ここで飲料水をゲットできるそうだ。やったぜ。
小峰台配水所の前にあるゲート。標識のとおり、車とバイクはNG。徒歩であればフェンスの右側から入れる。

大正時代に作られた全長約80mの小峰隧道(旧小峰トンネル)は、都道32号の旧道を登りきったところに横たわる。起点側(東京都八王子市上川町)の民家から、終点側(あきる野市小峰台)の小峰工業団地の入り口までは約1.6km。徒歩なら20分ほどかかる。常夜灯ひとつない暗い峠道だ。明るい日中ならまだしも、確かに、夕暮れどきや、ましてや夜中はちょっと歩きたくない……かもしれない。

路面は落ち葉に埋もれ、ツタが這い、道端には雑草……どころか木が生えはじめていた。夏になればきっと緑のトンネルができるはず。
日差しの当たらない山陰には、道路に苔が生えている。雨の日に自転車で坂道を下るとかなり滑りそう。
道路に落ち葉や土がめっちゃ堆積し、まるで未舗装の山道のように見える。新道(新小峰トンネル)が開通する1999年以前は、ここを路線バスが走っていた。
あきる野側から見た小峰隧道。トンネルの全長は約80m。手前は天井の照明が切れており、日中でもほぼ真っ暗。「幽霊が出る」といわれれば、確かにそれなりの雰囲気があるようなないような……。

昭和の終わり、この静かな町で、日本中を震撼させる大事件が発生した。東京・埼玉連続幼女誘拐事件だ。
犯人は宮崎勤。当時26歳のこの男は、幼女ばかりを狙い、わずか1年のうちに4人の命を奪った。
オタク、ロリコン。当時あまり聞き慣れない言葉がメディアに踊った。
各社の報道競争が沸点に達した平成元年8月、読売新聞が夕刊で「捜査本部が宮崎勤のアジトを発見した」と報じた。小峰峠にあるとされたアジトは、地元の名士であった宮崎家の使用人が使っていた山小屋の廃屋で、宮崎はそこに被害者の遺体を隠していたとされた。しかし、それは捏造記事だった。
小峰峠は、事件現場である宮崎の自宅から山2つ分くらい離れているし、ここに幼女の死体が遺棄された事実はない。もちろん犯人のアジトもなかった。ただ、トンネルに女の子の幽霊が出るという噂だけが残った。

宮崎勤の父親は、地元の旧五日市町で『秋川新聞』というローカル新聞を作っていた。読売新聞の捏造記事と前後するが、事件が発生する少し前、その新聞に「小峰峠に幽霊が出る」というコラムが載ったそうだ。常夜灯ひとつない峠道のトンネルは、ローカル新聞の他愛のないコラムの舞台にぴったりだったのだろう。そのほか、あるジャーナリストが書いた宮崎事件のノンフィクションにも、小峰峠には幽霊が出るという話が書かれたことがあるそうだ。
人通りの少ない古いトンネルにありがちな落書き。
“幽霊スポット”として有名になってしまった小峰隧道。個人の動画撮影なのかブログ記事の企画なのか、なかにはトンネルで一夜を過ごすもの好きもいるらしい。ただ、山火事の原因になるので焚き火は止めてほしいものだ。
Wikipedia名誉教授によると、「2006年に止水と崩落補強の処理がされ、レンガの上からコンクリートが吹き付けられ(全幅が)少し狭くなっている」とある(Wikipedia/『小峰トンネル』の脚注1より)。壁面を見ると、なるほど、壁が20cmほど厚くなっているのがわかる。
八王子側から見た小峰隧道。冒頭でも触れたが、本来はこちらが起点。補強工事のおかげで、ひび割れや水が漏れているところはなかった。(落書きなどはあるが)比較的きれいな状態が保たれている。

都道32号は、思いのほか車通りが多い。ダンプやトラックが背中からバンバン追い抜いていく。新道から旧道に入ると、あとは峠のてっぺんまで細道が続くのみだ。こちらは人通りが一切ない。
アスファルトの道路は、あるところは苔むし、またあるところは足元が沈むほど落ち葉が積もっていた。夏になると、道端のツタや雑草が道路を覆ってしまうだろう。

トンネルを訪れたのは真冬。それでも木々が道路を覆うようだった。「小峰峠」と書かれた看板の左側に描かれているのは、八王子市の市の鳥であるオオルリ。高尾山や陣馬山あたりで見られるそうだ。
フェンスで囲まれた資材置き場。入り口は完全に封鎖されており、現在は使われていないようだ。
「地域住民は迷惑しています ドリフト・ローリング走行禁止」と書かれた看板。昔は走り屋やドリフト族のメッカだったらしい。

大きな曲がり道の向こうに、小峰隧道がその口を開けていた。
大正5年の開通から、すでに100年以上が経過したレンガ造りのトンネル。トンネルのなかはかび臭い、じっとりした空気が漂っている。コンクリートの壁面には、地元の暴走族が書いたらしい落書きがあった。しかし、ひとの残り香のようなものは感じられなかった。

旧道のゲート(八王子側)。徒歩の場合は、右側の車止めを避けて通ればOK。
「けん銃を持つな持たすな社会の目 銃器に関する情報をお願いします」という五日市警察署銃摘発推進本部による看板(あきる野市小峰地区)。のどかな地域に似つかわしくない「けん銃」という文字。その昔、けん銃を使った事件でもあったのだろうか……。
1999年に開通した新小峰トンネル(写真は八王子側)。自動車やバイクはもちろん、歩行者や自転車も通行可能。近くにバス停があり、JR武蔵五日市駅もしくは京王八王子駅からアクセスできる。

新小峰トンネルが開通した1999年以降、小峰隧道のある旧道は車止めが設置された。歩行者は依然通れるが、便利な新道があるのに、わざわざ薄暗い山道を歩くような物好きはいない。旧道で見かけるのは、犬を散歩する地元の人と、峠を攻める自転車乗りくらいのものだ。人通りが途切れてから早20年以上が過ぎた。噂の幽霊トンネルは、いまや緑に飲まれようとしている。ひとの気配すら薄れつつあるトンネルはもう怖くない。そもそもが、何もないただのトンネルなのだ。