訪れたスポット
1.払沢の滝
檜原村にある払沢(ほっさわ)の滝。
村の公式HPによれば、払沢の滝は、東京都で唯一『日本の滝百選』に選ばれた名瀑とある。
2月のある日。東京に雪が降った翌日、払沢の滝のある檜原村にのこのこ出かけた。
檜原村は、村役場のある都道33号沿いでも海抜265mあるそうだ。ちょっとでも冷え込むと路面がカッチカチに凍結する。当日、東京都環境局は「観光の計画を変更するか、雪山用の装備を用意せよ」と注意をうながしていた。なにせ雪が降った翌日である。たしかに予定を変更すべきだろう。


そんなわけで、予定どおり、檜原村に向かった。雪景色の滝はさぞかし美しいだろう。
払沢の滝は、冬になると氷瀑と化す。檜原村観光協会のHPでは、滝の結氷率が発表されているが、2月以降は連日50パーセント前後を記録。完全結氷まではいかなくとも、滝の半分が凍るというのだから、なかなかの景色が見られるのではないか。



一眼レフを持っていくべきか迷った。
ボディとレンズで2キロを超える。これに三脚を担いだら、山道できっとバテる。なにしろわたしは絶賛お腹周りが気になるお年頃である。やめよう、極度の運動不足が重い機材を担ぐなんて無謀すぎる。

(意識して)滝を見るのはいつ以来だろう。
小学6年生のころ、修学旅行で華厳の滝(日光市)を訪れたことがあるくらいだ。
わたしの小学校には、児童をビビらせることだけが生き甲斐になっている、軽度に気の触れた教諭がいた。修学旅行を目前に控えた我々に、「華厳の滝は自殺の名所で……」と毎日同じ話をするのだ。
その教諭のおかげで、華厳の滝は自殺の名所と刷り込まれた。栃木県民は激怒していい。いざ荘厳な滝を前にしても「ここでみんな自殺したのか……。心霊写真が写っていたらイヤだな……」としか思わなかった。
(ちなみに小学5年生のころは、林間学校で富士山麓に宿泊したが、そのときはそのときで、またも同じ教諭に「青木ヶ原は自殺の名所で……」と連日同じ話をされた)
令和のポリコレでは完全にアウトだろうが、昭和から平成にかけては、そんな教諭はいくらでもいた。おかげで滝にはあまりいい思い出がない。
(後年、朝倉喬司『自殺の思想』(太田出版)を読んだとき、久しぶりにその教諭のツラを思い出した)


村役場を抜け、駐在所を過ぎ、突き当りの交差点を右に曲がると、クネクネ道の先に無料駐車場がある。
「やまびこ」という喫茶店の脇から、沢沿いの山道を登る。
足元に残雪があったが、ハイキングシューズがあれば滑るほどではない。

歩きはじめて20分。果たして払沢の滝はあった。
滝の落差は約60m。当日の氷結率は約30パーセント。期待していたほどは凍っていなかったが、それにしても雪化粧が見られたのは僥倖だ。ありがてえ。

ここぞとばかりにシャッターを切ってみたが、滝の写真はうまく撮れなかった。
わたしは諦めてカメラを仕舞った。氷瀑の美しい写真は、Google画像検索に譲ろう。



雪景色の払沢の滝。
凍てつく滝壺に落ちる水の音に耳を傾けていると、文字どおり、心が洗われるようだった。
そのあいだ、16歳で華厳の滝から身を投げた藤村操青年の最期をおどろおどろしく語った、あの気の狂った小学校教諭の顔はまるで思い浮かばなかった。
交通アクセス
車:都道33号を檜原村方面へ。払沢の滝 無料駐車場あり


